更新日 2021.5.20
マイナスが続く米実質金利、金相場の支えに

下のグラフは2021年1月からのニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物価格と米国の実質金利の推移で、強い逆相関性にあることが示されています。米国の実質金利は「10年物国債利回り」から「期待インフレ率」を差し引いた金利で、「期待インフレ率」には「10年物のブレーク・イーブン・インフレ率(BGI)」が用いられています。
10年物米国債利回りは今年1月初旬に1.00%の節目を突破した後は上昇基調となり、3月末には1.77%台まで上昇。実質金利(名目金利-期待インフレ率)も年初の-1.104%から3月中旬には-0.570%台に上昇しました。
バイデン米大統領が3月11日、1兆9000億ドル規模の経済対策法案に署名し同法案が成立。1人最大1400ドルの現金給付などが実現し、景気回復が早まるとの期待が台頭しました。また、米連邦準備制度理事会(FRB)が連邦公開市場委員会(FOMC)後に発表する政策金利見通しで、2023年への利上げ時期前倒しが示されるとの懸念から債券が売られ、金利が上昇しました。

金は保有しても金利収入が得られない資産であるため、金利が上昇すると相対的な魅力が低下し、売られやすくなります。実際にNY金の先物価格は実質金利の上昇により、終値ベースで1月初旬の1950ドル台から、3月初旬には1670ドル台に下落しました。
3月中旬以降の10年物米国債利回りは1.50~1.70%で推移しました。3月開催の米FOMC後に公表された参加者18人の政策金利見通しでは、ゼロ金利が少なくとも2023年末まで続くとの中心シナリオが、前回2020年12月時点から維持されました。さらに、4月の米FOMC後の会見で、パウエル議長が新型コロナウイルスの深刻な打撃を受けた産業でも改善の兆しがあるとしつつ、「完全な回復には程遠い」と強調。量的緩和の縮小開始を議論する段階に「まだない」と明言したことで、債券が買われています。

一方、期待インフレ率は3月中旬の2.20%台から5月中旬には2.50%台に上昇しました。
新型コロナウイルスのワクチン接種拡大やバイデン政権の財政政策などによる経済活動の再開を背景にした景気の急回復で原材料価格が上昇、4月の米消費者物価指数は前年同月比4.2%上昇と、2008年9月以来12年7カ月ぶりの大幅な伸びを記録しました。また、世界的な半導体不足やサプライチェーン(部品供給網)の混乱により、生産が需要に追い付いていないことも、物価上昇圧力につながっています。
実質金利は10年物米国債利回りが1.50~1.70%台で推移する一方、期待インフレ率が上昇したことで、3月中旬の-0.570%から5月中旬には-0.920%台に低下。金は保有しても金利収入が得られない資産であるため、金利が低下すると相対的な魅力は高まるため、買われやすくなります。実際にNY金の先物価格は実質金利の低下により、終値ベースで3月初旬の1670ドル台から、5月中旬には1890ドル台に上昇しています。
国際商品の総合的な代表指標でインフレ動向の先行指標としても注目されているCRB指数が5月11日に一時207.7947と、2015年7月23日(209.7955)以来5年10カ月ぶりの高値に上昇しています。新型コロナウイルス禍での各国の積極財政や経済再開に伴う商品需要の増加が見込まれる銅などの非鉄金属や天候不順による穀物価格の上昇が、CRB指数の上昇をけん引しています。

また、バイデン米大統領は2021年3月、インフラ整備などに2兆ドル超、子育てや教育支援に1兆8000億ドルを充てる戦略を表明したことは、米景気の回復局面での大型財政出動がインフレ加速を招きかねないとの懸念が出ています。
今後、米国でのインフレ加速への懸念が一段と高まる状況となれば、期待インフレ率は上昇することが予想されます。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)が事実上のゼロ金利政策と量的緩和策の継続する姿勢を崩さなければ、米長期金利の上昇は抑えられ、マイナス金利の状況にある実質金利は一段と低下する可能性があります。
NY金先物価格はマイナス圏にある米実質金利が支援材料となっていますが、米実質金利が一段と低下に向かえば、1月初旬に付けました終値ベースでの2021年の高値1954.40ドルを更新することが予想されます。


