更新日 2021.6.14
中国、官民上げての購入で世界最大の金需要国に

有力産金業界団体のワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が四半期ごとに公表しています『世界の金需要報告』では、中国は2013年に世界最大の金需要国となりました。
中国政府による金市場発展策
中国が2013年にいきなり世界最大の金消費国となったわけではなく、それなりの時間と政策が必要でした。
中国では歴史的に個人による金保有が禁止されていましたが、2001年12月の世界貿易機関(WTO)加盟をきっかけに中国政府が自由化の流れにシフトし始めました。
2002年に上海に金取引所が開設され現物取引を開始。2004年には中国人民銀行(中央銀行)が個人による金地金投資を1950年以来初めて認可しました。
2010年8月には国内銀行に金の輸出入量拡大を許可するとの方針や金の対外取引を認める商業銀行の対象増加など、金市場をさらに発展させるためのガイドラインを公表しました。また、2010年12月に中国工商銀行がWGCの協力の下に純金積み立てを開始すると、銀行側の積極的な販売姿勢で人気が爆発しました。
出所:WGC 単位:トン
中国、2013年に世界最大の金需要国に
中国政府による金市場発展策により、元々、金選好の強かった国民が金を購入し易くなった結果、2013年にインドを追い抜き、世界最大の金需要国となりました。
WGCの統計では、2013年の中国本土の宝飾品と投資需要の合計は前年比57%増の1345.5トンと史上最高を記録しました。金需要が急増したのはドル建て金価格の暴落が要因です。
出所:WGC 単位:トン
13年4月のNY金、史上2番目の下げ幅を記録
ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物価格が2013年4月15日、米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和の早期縮小観測が台頭、キプロスの金準備売却計画をきっかけに債務問題を抱える他のユーロ圏諸国にも金売却が広がるとの思惑が浮上したことから急落しました。終値は前日比140.30ドル安と、1日の下落幅としては1980年1月22日(143.50ドル)以来約33年3カ月ぶりとなる史上2番目の落ち込みを記録しました。
ドル建て金価格の急落でアジアでは熱狂的な金買いが起こり、中国本土の主な金輸入先のシンガポールや香港などでは延べ棒や金貨が店頭で品切れ状態となりました。
中国国内はゴールドラッシュ
中国国内でも金製品を買い求める人が殺到し、「ゴールドラッシュ」を引き起こしました。「4月中旬の金価格急落で、中国大媽(中国のおばさん)が10日間で300トン以上の金を購入した」との報道や、5月初旬のメーデー3連休時には来客数が通常の1.5倍となった店舗もありました。
出所:WGC 単位:トン
2013年の香港からの金輸入量、過去最高を記録
2013年の中国金需要の急増は、香港政府統計局が毎月公表する「中国本土の香港からの金純輸入量」データにおいても裏付けされています。
同データによりますと、2013年3月に過去最高となる136.185トンを記録した後も、5月から6カ月間連続で100トン台を継続しました。
年間では2012年の832.162トンから39%増の1,158.192トンと初めて1000トンを上回り、過去最高を記録しました。
出所:香港政府統計局統計 単位:トン
2014年~2019年の中国金需要
2014年、過去2番目の高水準
宝飾品と投資需要は1005.3トンと、史上最高を記録しました2013年の1345.5トンから25.3%減少しました。しかし、需要としては過去2番目の高水準を記録し、2012年の856.3トンからは17.4%増加しました。
中国で金輸入を行う資格を取得しています15銀行のうちの1行に所属する上海のトレーダーは、2014年の中国の金輸入に関して、「依然として高水準であり、消費者需要も引き続き旺盛」と指摘しました。
2015年は前年比小幅減、下半期に投資需要が拡大
‥宝飾品と投資需要は前年比1%減の995.5トン
2015年上半期は減少
中国株式市場の上昇で投資家の関心が金から離れ、投資資金が金市場から株式に流出したことが要因。
2015年下半期は増加
7月のドル建て金価格の下落が投資資金を金市場へ呼び戻しました。また、中国国内では株価の急落と人民元安に懸念を強めた投資家が資金の逃避先として金投資を拡大しました。
15年12月の香港経由の金純輸入量は129.266トンと前月から急増し、2013年10月(131.190トン)以来、2年2カ月ぶりの高水準を記録しました。
2016年、3年連続の減少
‥宝飾品と投資需要は前年比7%減の929.4トン
2016年上半期は減少
1月~2月の春節(旧正月)は例年、贈答用の金需要が増加する傾向にありますが、同年は中国政府による汚職撲滅運動を背景に減少しました。また、過去数年の価格帯で金を購入した消費者が2013年~2015年にかけての値位置よりも安い水準での購入を狙って買いを手控えていたことも減少要因となりました。
2016年下半期も減少
7月~9月はドル建て金価格が1300ドル台で高止まりしたことで、消費者が金購入を見送りました。
10月はドル建て金価格の下落で増加しました。しかし、その後は年末までの金輸入割り当てを使い果たした銀行に対し、中国政府が輸入許可を制限したことで減少しました。
中国政府は上海金取引所に入会している銀行13行(外資系3行を含む)に対し、金輸出入の免許を許可しています。しかし、人民元が16年10月、対ドルで8年ぶりの安値を付けたのを受けて、人民元相場の安定化を図るため、海外への資本流出を抑える政策を打ち出しており、その一環として現在は銀行への金輸入許可を制限しました。
2017年、4年ぶりの増加
‥宝飾品と投資需要は前年比4%増の953.3トン
2017年上半期は増加
中国政府から金輸出入を許可された銀行が在庫補充に動いたことから、3月の香港経由の金純輸入量が111.647トンと、2016年5月以来となる高水準を記録しました。
また、4月は米国によるシリア攻撃で中東情勢が緊迫化するとの懸念や、北朝鮮をめぐる地政学的リスクなどにより、投資家のリスク回避姿勢が強まる中、安全資産とされる金が買われました。その後もドル建て金価格の下落により輸入が増加しました。
2017年下半期も増加
7月は上海プレミアムの拡大で輸入が増加。上海プレミアム(金現物の価格と上海金取引所の金価格との差)が拡大すると、銀行は国内外の価格差を利用して利ザヤを得ることができるため、金輸入が増える傾向にあります。
ただその後は、価格に非常に敏感する中国の消費者にとってドル建てと人民元建ての金価格の上昇が買い意欲を抑制しました。また、株式市場などのリスクの高い投資が優先されたことも需要を抑える要因になりました。
2018年、2年連続の増加
‥宝飾品と投資需要は前年比2%増の976.7トン
2018年上半期は増加
米国と中国の貿易制裁措置発動の応酬により、貿易摩擦激化に対する懸念から、安全資産とされる金を買う動きが強まり、投資需要が増加しました。また、ドル建て金価格が米利上げペース加速観測で下落したことが、宝飾品需要の増加につながりました。
2018年下半期、10月~12月期は減少
年末にかけてのドル建て金価格の上昇により、宝飾品需要が減少。また、中国人民銀行が米国との貿易摩擦や人民元の流出を制限するため、輸出入の免許を許可している銀行に対し金の輸入割当てを制限したことも、減少要因となりました。
2019年、3年ぶりの減少
‥宝飾品と投資需要は前年比15%減の848.4トン
2019年上半期は減少
中国人民銀行が2018年末から銀行の輸入割当てに対する規制を発動。また、ドル建て金現物相場が上昇傾向となり、5月には1300ドルの節目を回復したことも現物需要を抑制しました。
2019年下半期も減少
中国人民銀行が数カ月、輸入を手掛ける銀行に対して輸入割当枠を縮小、全く設定しなかったことが減少要因。人民元相場が下落する中、資金の国外流出を制限するため、金輸入を制限しました。
また、伝統的に中国への金現物の主な入り口である香港で数カ月にわたる政治不安が、宝飾品販売を抑制し、都市外への金出荷に関する懸念を引き起こしたことも減少要因となりました。
2020年、2年連続の減少
‥宝飾品と投資需要は前年比28%減の614.7トン
2020年上半期は減少、香港の輸出入が輸出超過に
1月に湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)により、ほぼすべての経済活動が抑えられたことで、中国国内の金需要が大きく落ち込んだうえ、国内の供給が既に過剰状態にありました。
中国国内の需給が緩和状況となったことで、4月の香港経由の中国輸出入は、2011年以降では初めて中国本土に輸入された金が輸出分を下回り、10.3トンの輸出超過となりました。5月も1.5トンの輸出超過と2カ月連続で輸入から輸出を下回りました。
2020年下半期は減少、10月からは需要が回復傾向
7月~9月期の中国の金需要は、新型コロナウイルスの感染拡大とその経済活動への影響により不調が続きました。ロックダウンによる宝石店の閉鎖や、失業と給与カットによる消費者支出が減少したことで、需要が抑制されました。
10月~12月は、新型コロナウイルスの感染抑制による経済活動が再開されたことや、旧正月を前にしての需要により、前年同期の水準まで回復しました。また、2020年11月のドル建て金現物価格の下落率が前月比5.4%と、2016年11月以来最大の月間下落率を記録したことも増加要因となりました。
出所:香港統計局 単位:トン
2021年
1月~3月期、17年1月~3月期以来の高水準
中国経済が2020年10月~12月期から回復していることで、1月~3月期の金需要は新型コロナウイルス感染拡大による低迷から回復。WGCの統計では前年同期比182%増の277.5トンと、2017年1月~3月期以来最も多い水準となりました。
また、4月中旬の報道で中国政府が国内と国際銀行に対して大規模な金輸入を許可しました。関係者によりますと、中国当局の輸入許可を受け、約150トンが4〜5月に国内に到着する見通し。
宝飾品需要、2015年1月~3月期以来の高水準
また、中国の21年1月~3月期の宝飾品需要は191.1トンとなり、2015年以来1月~3月期の最高水準を記録しました。これは経済状況の改善、金価格の低下、祝日に関連した販売拡大の主な3つの要因に支えられました。
2021年、新型コロナのパンデミック前の水準を回復へ
WGCの中国担当であるロナルド・ワン氏は4月29日、世界の経済や地政学の状況に劇的な変化がなければ、2021年の中国の金需要は、新型コロナウイルスのパンデミック前の水準に戻るとの見通しを示しました。
ワン氏は「2021年1月~3月期の需要の伸びは2019年実績をも上回った。状況が安定していれば、中国の需要の伸びは維持できると確信している」と述べ、宝飾品と投資分野が中国の金需要を牽引するとの考えを示しました。
WGCによると、世界最大の金消費国である中国では、2021年1月~3月期の金需要は前年同期比182%増の277.5トンに増加しており、13年ぶりの低水準に落ち込んだ世界の金需要の傾向とはまったく対照的で、ワン氏は「中国の消費者はパンデミックが発生する前の2年前よりも、今日の方が自信を持っている。当時は貿易戦争の影響について不確実性があった」と指摘しています。
金市場を発展させる中国の狙いとは
世界の超大国、米国に対抗できる国家へ
中国政府が金市場発展策を推し進め、国民に金購入を奨励するのは、世界の超大国である米国に対抗する国家になるためではないかと推測しています。
中国は2010年に名目GDP(国内総生産)で日本を抜き世界第2位の経済大国となりました。しかし、これまで歴史上覇権国家と呼ばれてきましたイギリスと米国は他を圧倒する金準備高を誇っていました。
WGCの統計では、米国の公的金準備高は2021年6月時点で8133.5トンと世界第1位であるのに対し、中国は1948.3トンと世界第7位の規模にとどまっています。
出所:WGC(2021.6月発表) 単位:トン
人民元の決済通貨としての地位向上
中国・人民元は長年、流動性がほとんどなく、他国の通貨と自由に交換できない通貨であるソフトカレンシーと呼ばれてきました。しかし、米国に対抗する国家を目指す中国にとって、人民元のハードカレンシー(国際決済通貨)としての地位向上は必要不可欠な条件です。
ハードカレンシーとは金本位制時代のいつでもハード(硬い金属→金)と交換可能な通貨というのが語源です。
通貨がハードカレンシーであるための条件として、①国際的に信用がある。②発行国が多様な財を産出。③国際的な銀行における取引が可能。④あらゆる場所での換金が可能・・・などが挙げられています。
中国は貿易や投資の人民元建て決済利用を促し、国際的な人民元の地位を高める取り組みを推進した結果、国際銀行間通信協会(SWIFT)のデータでは、人民元の物品・サービスの決済通貨として地位は世界第5位(2021年2月時点)と、2013年の第20位から躍進しています。
最終目標は人民元を基軸通貨に
世界第2位の経済大国である中国が大量の金を国内に集め、人民元の国際決済通貨としての地位向上など、国力を高めることに邁進するのは基軸通貨としての特権を獲得することが最終的な狙いと推測しています。
基軸通貨として貿易決済の地位を確立すれば、米国のようにお金を刷り放題刷って貿易の決済に使うことができます。これまで、基軸通貨の特権を獲得したのは大英帝国とアメリカ合衆国のみで、両国は世界の覇権国家として君臨しました。
中国が将来、基軸通貨としての地位を獲得する日が来れば、パクス・ブリタニカ、パクス・アメリカーナに続き、パクス・チャイナの時代もあながち非現実的とは言えないかもしれません。


