更新日 2021.5.31
公的機関の「金準備」とは? 国際社会の貨幣価値を支える縁の下の力持ち

公的機関の「金準備」とは
「金準備(きんじゅんび)」とは、各国の政府と中央銀行が輸入代金の決済等のために保有している貨幣用の金のことです。国際通貨基金(IMF)に加盟する各国の政府と中央銀行は、通貨当局が為替介入に使用する資金や、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産として、一定比率以上の外貨等の資産を保有する義務があります。これを「外貨準備」と言います。
この準備資産に含まれる項目には、外貨・外債などの流動資産、貨幣用の金、SDR(特別引出権)などがあり、この内、「貨幣用の金」が「金準備」と呼ばれます。
日本の金保留量が50年ぶりに増加

日本の外貨準備高は2021年4月末時点で約1兆3784億ドル。中国に次いで世界第2位。外貨準備高は日本の場合、財務省が「外貨準備等の状況」として毎月ホームページで発表しています。
日本の外貨準備の一部として保有する金の量は、2021年1月28日に成立した令和2年度第3次補正予算成立後に積み増され、2021年2月末時点の765.15トンから80.87トン増加し、2021年3月末時点で846.02トン。金とドルの交換が停止した1971年の「ニクソンショック」以来50年ぶりに行われた金準備の積み増しは、80トンもの大幅な増加となりました。
今回行われた日本の金準備高の積み増しは、新型コロナウイルス感染症の拡大を背景とした補正予算の財源を捻出するために、過去に造幣局が購入した金を、外為特会(外国為替資金特別会計)が、日銀に対して保有するドルを売却し、日銀から受け取った円を使って購入する、という経路を辿って実現されました。
この経路は複雑に見えるかもしれませんが、単純に言うと、過去に政府が購入した金塊価格が上昇し、発生した「含み益」を現金化する際に、混乱を避けるために市場を通さずに帳簿上でのみ処理したということです。この含み益が補正予算の財源に充てられています。
各国中央銀行が金を保有する理由
各国中央銀行は保有する金を売却することで緊急時の財源を確保することがあります。今回の日本のケースも、市場へと直接売却した訳ではありませんが、帳簿上の利益を現金化することで予算を確保した財源確保の一種と言えます。
金は通貨としての側面を持つため、各国中央銀行は自国通貨の為替レートの安定や外貨債務の支払いに充てるための資金となる外貨準備の一部として、金を保有しています。
過去、2018年3月から「米中貿易摩擦」が激化した際には、中国やロシアを初め、第三国の中央銀行がドル安による自国通貨安を防ぐために公的に金を購入し、金準備を増加させました。金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、2019年の各国中央銀行による金の購入量は741.2トンと、前年度比55%増となっています。
米国が金本位制離脱を決めた1971年以降、各国中央銀行や公的機関の金準備高が最も増えたのは2015年の913.4トン増ですが、この年は中国が統計に反映せずに購入していた金保有708.2トンが含まれるため、実質的には2019年が過去最大の中央銀行による金購入となります。
現在の世界の金準備高合計はおよそ3万5228.34トン(2021年4月時点)。
2008年末に3万トン割れ目前まで減少しましたが、その後は着実に増加しています。2010年から2019年までの年間の公的金購入量は平均500トンに迫り、18年実績では世界の年間金需要の15%を占めるに至りました。一方、金を売る動きは殆ど見られず、金準備高世界第2位のドイツが数トン売却した程度で、金準備高上位となる主要7カ国(G7)各国も金準備を売る動きは殆ど見られません。
21世紀に入り、BRICSに代表される新興国の経済発展や世界的な金利低下傾向に伴い、世界各国の中央銀行の外貨準備高は急増。資産分散の意味からも中央銀行の金買い意欲は来年以降も継続すると見られます。

金準備の最大保有国、アメリカ合衆国
今も昔も金を最も多く保有している国はアメリカ合衆国(以下、米国)で、世界の中央銀行が保有する金の約25%にあたる8133.5トンを保有しています。
なぜ米国はこんなにたくさんの金を持つ必要があるのでしょうか?
それは、かつて「金ドル本位制(ブレトン・ウッズ体制)」を採用していたことに関係しています。
金ドル本位体制とは、世界共通の価値を持つ金とドルの交換比率を1トロイオンス=約31.1035グラム=35ドルと定め、各国の通貨とドルの為替レートを固定化する制度のこと。この制度は1971年8月に停止されましたが、その後も米ドルは世界で最も信頼度が高く、世界中で使用される基軸通貨としての地位を維持しています。前述のように、世界各国の政府や中央銀行は外貨準備を保有することで、自国通貨の為替レートを安定させますが、基軸通貨である米ドルは例外で、同国で発行する米ドルを幾ら保有しても外貨準備を増やすことができません。その代わり、どの国のものでもない「無国籍通貨」として金を保有しています。
米国の外貨準備の77%が金準備とされ、金準備の重量は2614億9900万トロイオンス(8133.5トン)。その単価は1971年当時の簿価である42.2222ドル/トロイオンスで評価されています。
なお、現在の米国の金準備は、米連邦準備制度を通じて民間の各地区連銀から米財務省に預けられた形になった金の数量と一致しています。米財務省は各地区連銀から預託された数量に応じて金証券を発行しています。
金証券は1934年の金準備法の下、米連邦準備制度が持つすべての金(元々は株主の民間銀行が保有していたもの)を米財務省に事実上押収された際に、アメリカ合衆国憲法の「私有財産は正当な補償なく、公共の用のために徴収されてはならない」という規定に抵触することを避けるために用意されたものであり、期限のない借用書のようなものです。
現在は、金ドル本位制も停止され、為替レートも変動相場制となり、金と米ドルは直接的に結び付けられてはいません。しかし、基軸通貨とされ、多くの通貨の価値を測る基準となっている米ドルの価値を、金が裏付けていると言えそうです。

IMFの金保有
1945年12月に設立された国際機関のIMF(国際通貨基金)は、米国(8133.5トン)とドイツ(3378トン)の次に金を多く保有しています。
IMFは世界のほぼ全ての国が加盟する国際機関で、加盟国数は189カ国(2016年5月現在)。同盟国の為替政策の監視(サーベイランス)や、国際収支が著しく悪化した加盟国に対して融資を実施することを通じて、国際的な金融協力や為替相場の安定を図ります。
外貨不足に陥らないように加盟国の中央銀行に外貨準備を義務づけたのがこのIMFであり、加盟国は外貨準備の一部として金をどれだけ持っているか、IMFに申告しなければなりません。
また、IMFは途上国向け融資の原資を確保する目的で金を売却することがあります。
2009年には融資原資の確保を目的に総額403.3トンの金を各国中央銀行へ売却、翌年2月には、191.3トンを段階的に市場で売却しました。
IMFの保有金は現在2814.1トン(2021年3月16日現在)であり、それらの保有金は1971年以来1トロイオンス=40ドル程度で計上されたままです。このため、市場価格1800ドルで売却すれば、1800ドル-40ドル=1760ドル×売却重量分が利益となります。この利益分が融資の原資に充てられます。
IMFはコロナ禍の中で、主に緊急融資と予防的融資ツールを通じて、既に約80か国に対して資金面での支援を行っています。また2021年5月21日には新型コロナウイルス感染症(COVID19)から世界各地を守り、命綱になるワクチンの確保における格差を縮めるため500億ドル(約5兆4500億円)の支出計画を呼び掛けました。現状では可能性は低いものの、IMFからの融資が必要なほど財政が悪化する途上国が増えた場合、金売却が実施されると考えられます。

ロシアの金準備
ロシア中央銀行が2021年1月公表した報告書によると、2020年6月時点で同国が保有する外貨準備の構成比率で金が米ドルの比率を上回りました。「無国籍通貨」とみなされドルの代替資産と位置づけられる金が、基軸通貨のドルの比率を上回るのは、統計を遡れる14年以降では初めてとなります。ロシア中銀は保有する外貨準備の構成比率を直ぐには公表せず、半年後に公表します。
ロシア中央銀行は近年、毎月のように数トンから数十トンの纏まった量の金を購入してきましたが、2020年4月1日に金購入を停止すると発表。今回の発表で、主軸通貨とされるドルから金へと外貨準備高の比重を移し終わったことが確認されました。

中国の金準備
中国は2000年代に入ってから金準備を増やし続け、2021年6月時点で1948トンを保有するに至りました。
中国は2015年から毎月、金準備高を発表していますが、これは国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)通貨バスケットに人民元を加えるため、同国がIMFの厳しい外貨準備高基準値を採用したのと時を同じくします。
IMFが16年10月に人民元をSDRバスケットに採用すると暫く金購入を控えていましたが、2018年に米中貿易摩擦への懸念が強まると、2018年12月から2019年9月までの間に金購入を再度実施。中国の金購入は同国の経済政策に強く関わることが解ります。
しかし、中国は世界第6位の金保有国であるものの、外貨準備に占める金の割合はドイツや米国が70%以上であるのに対し、3.2%に過ぎません。今後も中国経済が成長する中で金準備を積み増す可能性が高いと見られます。なお、2015年に金準備高を発表した際には、いままで統計に反映せずに購入していた金保有708.2トンを積み増しており、現在、統計上は金購入を行っていませんが、統計に表れない部分で金を購入しているのではないか、と市場からは常に警戒されています。

公的金売却とワシントン合意
近年では、自国通貨の為替レートを安定させるために各国中央銀行が金を購入するのが一般的になっていますが、かつては逆に、各国中央銀行は金を積極的に売却していました。
しかし、金価格が安値更新を続けるようでは、金を大量に保有する中央銀行の財務内容が悪化するため、欧州を中心とした中央銀行はIMFの総会で売却規制のルールを制定。それが1999年9月に発表された「ワシントン協定」です。
このときのワシントン協定には、主に次のようなことが盛り込まれました。
- 金は重要な準備資産であることを認識する。
- 決定済みの売却を除いて市場に売り手として参加しない。
- 年間の金売却量は400トン以下、5年間で最大2000トンを超えないこととする。
- 金の貸し出し、デリバティブ取引を拡大しない。
- 協定は5年後に見直す。
この協定には、米国やIMF、BIS(国際決済銀行)なども同意し、主な中央銀行はすべて協定を守りました。その甲斐あって、それ以降中央銀行の金売却量は減少。その後も、5年毎に更新されましたが、2008年の「リーマン・ショック」や2009年の「ギリシャ債務危機」を契機にソブリンリスクが意識される中、金の価値が見直されたことや、中国経済の発展に伴う金需要の増加により、金価格が上昇したことなどから、各国中央銀行は金の売り手から買い手に転じ、第4次協定(2014年9月~2019年9月)では売却量の制限が無くなりましたが、纏まった量の金を売る動きは見られず、役割を終えたと見做されたワシントン協定の更新は2019年に停止されました。

ポストコロナの金準備
ポストコロナとは、コロナ禍の後のことを指します。
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大(パンデミック)後の金準備はどうなるか?
と考えた場合、著者は、各国政府は金準備を増やさざるを得ない、と予想します。
世界的な金購入量は2020年に入ると減少。世界的な新型コロナウイルス感染症拡大(パンデミック)により、経済は大きな打撃を受け、株価は感染拡大が本格化した2020年3月にいったん大きく下落。その後は、各国政府や中央銀行が経済を下支えるために、大規模な金融緩和策を実施したことで、株価は下げ止まり、流動資産の増加にともない世界的に株価が上昇。NYダウ(ダウ工業株30種平均)やナスダック総合指数は史上最高値を更新し、日経平均株価もバブル崩壊後の再高値を更新しました。
当然、その財源は予算から捻出され、日本が補正予算の財源として金の含み益を現金化したように、収縮する経済を支えるための緊急財政出動を行う際の財源として金が利用された他、金を積み増す予算を財源にあてたという面もあります。
また、新型コロナウイルスが世界的に拡大し始めた2020年第1四半期は1トロイオンス=1500ドル水準だった金現物価格が2000ドルを突破、8月6日には2067.2ドルの史上最高値をつけており、世界的な災厄に対する「有事の金」として買われたことが覗われます。
史上最高値をつけた後は、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発に目途が立ったとの報道を受けて下落しましたが、安値では買い拾われ、5月末時点では依然として1900ドル水準を回復しました。

今回のパンデミックが予測不能なブラック・スワン(黒い白鳥)なのか、材料が軽視されただけのグレー・リノ(灰色のサイ)だったのかは識者の間でも議論は分かれますが、いずれにせよ、誰も予想しない事態が発生し、壊滅的な被害を引き起こしたことは違いありません。そして、各国政府は、この予想できない事態にも対応しなければなりませんが、そのためには常に予算が付きまとい、財源が必要になります。
また、自国だけでは対処できない場合、諸外国とのやりとりが必要になりますが、その際には外貨準備が大きな意味を持ちます。しかし、今回のパンデミックは世界全体にダメージを与えており、複数の通貨を保有してリスクを分散させる通貨バスケット方式すら確実とは言えないことが示されてしまいました。
そのため、現在のパンデミックが収束した後のポストコロナの世界では、財源として金を購入する動きが強まると考えています。


